なぜ生成AIがうまく使えない?原因は「丸投げ」。SE流「AIを最強の新人にする」働き方
あなたは今日から「プレイングマネージャー」になる
生成AIは「全部やってくれる魔法の箱」ではありません。人がやるべきことは消えず、役割が変わります。きょうからのあなたは、作業者だけでなく、指揮と編集を担うプレイングマネージャーです。自分が手を動かす部分と、AIに任せる部分を意識的に分けると、仕事の見え方がはっきりします。
プレイングマネージャーの基本は三つです。目的を言葉にすること、成果物の形を先に決めること、途中で観察して修正すること。これがないままAIに依頼すると、方向違いの出力が増えて手戻りになります。逆に、最初に基準を置いてから小さく試すと、短い往復で品質が上がります。
到達点も先に描きましょう。「誰が、いつまでに、どの場面で使うのか」「何行、何ページ、どのトーンか」を具体的に決めると、AIは迷わず動きます。人のレビュー時間も短くできます。
この章では、あなたの視点を「作る人」から「成果を出させる人」に切り替えます。決めることと任せることを分け、AIを安全に速く活かすための土台を作りましょう。
FAQ|プレイングマネージャーとして最初の一歩は?
最初にやるのは「目的文」と「完成形サンプル」を用意することです。短い一文で目的を書き、過去の似た成果物を1つ添えます。これだけで、AIとの最初の往復の精度が上がります。
AIという「新人」の取扱説明書
AIは、人間の新人にたとえると理解しやすいです。大量の情報からパターンを学び、与えられた指示に沿って素早く案を出すのが得意です。一方で、曖昧な目的、矛盾した制約、現場の文脈の読み取りは苦手です。ここを誤解すると「期待外れ」に見えます。
まず、AIの得意なことです。定型の文章やコードの雛形づくり、要約、分類、言い換え、長い資料からの抽出などは高速です。次に苦手なことです。最新の状況判断、社内独自ルールの推測、意図が曖昧なタスクの解釈などは外しがちです。新人と同じで、最初は具体的な指示と例が必要です。
扱い方のコツは三つあります。背景を短く伝える、禁止事項を先に示す、途中で確認の質問を促す。この三つだけでも、やり直し回数が減ります。また、社内の言葉(略語や呼び名)を辞書のように短く共有すると、呼吸が合います。
個人情報や機密情報は出さない、根拠が必要な事柄は必ず原文に当たる、判断は人が最終決定する。これを運用の基本ルールとして明文化しておくと、チームでも安心して使えます。
FAQ|AIに任せやすい仕事と任せにくい仕事は?
任せやすいのは、定型で量が多い作業(要約、抽出、文面の初稿、雛形づくり)。任せにくいのは、独自事情の重い判断や機密を含む調整。迷うときは「例と制約」を付けた小さな試行から始めます。
「丸投げ」vs「協働」——成否を分ける決定的な違い
「丸投げ」は、目的・基準・確認を置かずに依頼する状態です。「協働」は、最小の基準を置き、小さく作って直す進め方です。両者は似て見えて、結果が大きく違います。違いを表で見てみましょう。
| 観点 | 丸投げ | 協働 |
|---|---|---|
| 目的の明確さ | 依頼時に不明確 | 一文で明示 |
| 成果物の形 | 後で決める | 先にサンプルを添える |
| 禁止事項 | 伝えない | 最初に箇条書きで共有 |
| 中間確認 | なし(完成待ち) | 途中で短く確認 |
| 修正の出し方 | 全体をやり直す指示 | 差分で指示(どこを、どう) |
| 成果の再利用 | 個人フォルダで埋もれる | 共有フォルダと命名規則で検索可能 |
協働に切り替える最短の方法は、目的文、完成形サンプル、禁止事項、この三つをテンプレで先に渡すことです。さらに、最初の出力は短く頼み、良い点と直す点を分けて返すと、次の出力が整います。
FAQ|忙しいとき最小の「協働」手順は?
三行で始めます。「目的」「出力形式」「禁止事項」を一行ずつ。続けて「150字でたたき台」と指定。出てきた案に対し、「第2段落の主張だけ強めて」「固有名詞は入れない」など、差分の指示を返します。
SE視点で読み解く——AIへの指示は「要件定義」に似ている
要件定義とは、作る前に「目的・成果物・制約・評価基準・例」を決める作業です。AIへの依頼も、本質は同じです。ここでのポイントは、すべてを細かく書くのではなく、最小セットを明快にすることです。
まず、目的です。「誰が何のために使うのか」を一文で書きます。次に、成果物です。「何の形式で、どの長さで、どのトーンか」を指定します。制約には「入れてはいけない情報」や「参照すべき資料」を入れます。評価基準は「達成の判断条件」です。例は「良い例と悪い例」を一つずつ。
実務では、非機能要件(速度、再現性、保守しやすさ)も軽く触れます。たとえば「処理時間3分以内」「同じ入力で同じ出力」「テンプレに沿った見出し」など。AIの出力でも、こうした基準を先に言うと、ブレが減ります。
短い依頼でも、五つの箱に沿ってメモを作ってから投げると、精度が安定します。最初は面倒に見えますが、二回目からコピペで流用でき、結果として時間が浮きます。
FAQ|最小限の要件で品質を上げるコツは?
「目的一文+出力の骨組み+禁止三点」の三点セットを常備し、依頼のたびに添えます。骨組みは見出し名だけでも効果があります。
プロンプト設計の基本——情報の最小セットと順序
プロンプト(指示文)は、情報の並べ方だけでも品質が大きく変わります。順序は「役割→目的→出力形式→制約→評価→例→入力」です。固定のテンプレに当てはめ、必要なときに自由記述で補います。
ミニテンプレの例です。
- 役割:あなたは社内広報の編集者です。
- 目的:新制度の案内文を社内ポータルに掲載します。
- 出力形式:見出し3つ、各段落は3〜4文、全体600字。
- 制約:略語は使わない。個人名は出さない。事実は資料Aのみ参照。
- 評価:対象者が「やること」「期限」を理解できる。
- 例:昨年の案内文のリンク(要点を列挙)。
- 入力:元のメモ(箇条書き)。
自由記述を入れる場合は、テンプレの後ろに置きます。先に枠を示してから肉付けするほうが、AIは迷いません。修正指示は「どこを」「どう変えるか」を差分で書き、再出力のたびにテンプレ部分は再掲します(文脈の取り違えを防ぐためです)。
FAQ|テンプレと自由記述はどちらを先に書く?
テンプレを先に書きます。枠を固めてから、自由記述で背景や事情を補います。順序を逆にすると、重要条件が埋もれやすくなります。
AIを新人として育てるフィードバック術
良いフィードバックは、速く、具体的で、次に活かせます。まず、良かった点を一つ挙げます(残すべき強みが共有されます)。次に、直す点を三つ以内に絞ります(優先度が伝わります)。そして、修正の方向を例で示します。
チェックリストを用意すると、レビューが安定します。
- 欠落:依頼した要素は全部入ったか(目的、出力形式、禁止)
- 誤解:用語の意味や主語がずれていないか
- 体裁:見出し、段落、長さ、箇条書きの条件を満たすか
- 根拠:外部情報を使う場合、出典や前提が明示されているか
- 再現性:同じ条件で同じ形が出るか(テンプレ通りか)
直し方の例も用意しておきます。「第2段落のみを、例を1つ増やして」「表の列は3列に」「禁止事項に触れた箇所を削除」など、操作的な指示が有効です。抽象的な「もっとわかりやすく」は避けます。
FAQ|うまくない出力を短時間で立て直すには?
良い点を1つ残し、直す点は最大3つに絞って差分で出します。同時にテンプレを再掲し、文脈の再読み込みを促します。再出力が整いやすくなります。
チームでの運用ルール——記録と再利用のコツ
個人の工夫をチームの資産に変えるには、記録と検索性が要です。保存先を一つに決め、命名規則を作ります。たとえば「用途_部門_版_日付」の順で並べるだけでも、あとから探せます。更新履歴を短く残し、改善の理由を書きます。
共有するものは三点に絞ります。プロンプトのテンプレ、良い出力のサンプル、判断の根拠メモです。これらがあれば、新しく来た人もすぐに同じレベルで動けます。レビューの観点も同じ言葉で話せるようになります。
運用で迷うときは、権限と安全の線引きを先に決めます。誰が最終判断者か、公開前のチェックは誰が行うか、機密情報の扱いはどうするか。ルールは短く、見つけやすい場所に置きます。
FAQ|共有で最低限そろえるドキュメントは?
テンプレ集、良いサンプル集、判断の根拠ノートの三点です。場所と命名規則を決め、更新日と担当者を明記します。
AI時代に「取り残される人」「突き抜ける人」の分かれ道
差は習慣で生まれます。取り残される人は、丸投げで一発を狙い、外れたら諦めます。突き抜ける人は、小さく作り、差分で直し、学びを次回に持ち越します。時間がなくてもできる最小の習慣を用意しましょう。
週次ふりかえりのミニKPT(良かった点Keep、困った点Problem、試すことTry)を10分で回します。プロンプト、出力、修正指示の例を1つずつ残すだけでも、次回の初速が上がります。増やしすぎず、使い回せる最小単位を意識します。
行動チェックの例です。
- 依頼前に「目的一文」を書いたか
- 完成形サンプルを1つ添えたか
- 禁止事項を三つ以内で示したか
- 最初の出力を短く頼んだか
- 修正は差分で出したか
- 良い点を明示して残したか
- テンプレとサンプルを更新したか
FAQ|今日から始める一番小さな習慣は?
タスク開始前に、目的一文と完成形サンプルのリンクを毎回用意します。終わったら、良い出力を1つテンプレ集に追加します。これだけで次回が楽になります。